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自然が持つ綺麗なライン、美しさを絵の中に  美術作家 森本ひであつ

インタビュー Vol.9 森本ひであつ さん

森本ひであつ さん

森本ひであつさんは、絵画制作を中心に活動する美術作家です。森本さんがいつもスケッチに来るという神代植物公園でお話を伺いました。

たまたま本屋で出会った絵本「カバンに色えんぴつ」 もともと絵を描くこととかが好きだったんですか? 何時間も集中して描き続けるというタイプではなかったです。時々ちらしの裏に戦っている男の絵や、小学生が好むややエッチな絵や下品な絵を描くという感じでした。姉と過ごすことが多く、雑貨屋で可愛らしい文房具とかグッズなどを見ることが好きでした。

それでも描いてみようと思われたきっかけは何ですか? たまたま本屋に行って「カバンに色えんぴつ」という絵本を見まして、それがすごく可愛らしくて、今までのスケッチ画とか風景画の印象と違ったものだったんです。それで、色鉛筆セットをそこで買ってその本の絵をまねしながら描いてみたんです。そこで「あれ、できるかも」って勘違いが起き始めるんです(笑)。本当に真似ただけなんですけれど、描ける描ける!となって、会社勤めの3年目に勤務しながら夜にデッサン教室へ通いました。その後、やっぱり絵の学校に入り直そうと思い、会社を辞めてセツ・モードセミナーへ通うことにしました。

セツ・モードセミナーを選ばれたのはどうしてですか?

「カバンに色えんぴつ」には何人かの作家さんがイラストを提供していたのですが、その中にお一人がセツだったんです。 そうだったんですね。どんな学びがありましたか? 世の中に出回っている書籍とか売られている葉書の絵を見て、もしかしたら自分ならもっといい絵が描けるのでは?という、まあ、勘違いなんですけど(笑)、そういった絵を描く仕事、所謂イラストレーターっというものを目指してセツに入るんです。ところが、セツで教えていることはイラストレーション的なことではなくて色の構図とか絵画的なことなんです。曖昧な色を生かす上品な雰囲気や、説明的ではなくモチーフを画面にとけ込ませていくセンスなど、当時の自分にはなかなか理解することが難しい事が多かったです。でも、最後の年の3年目にどっぷりつかろうと頭を切り替えて、セツ風というものを吸収していきました。そこでイラストの土台というのか、よく見せるものとは構図なんだっていうことに気付いていきました。逆に言うと構図さえしっかりできていれば、あとの味付けはいくらでもできる。でも、その構図作りが今でも難しい。

構図作りというと?

色で構図を作って色と色のいい関係を築いていくんです。赤が綺麗という見せ方ではなくて例えば極端に言うと赤と黒の関係が綺麗だよということです。色と形でどう配置するかで画面が綺麗に見えたりとか引き立ってそれぞれが引き合うということです。そこからキャラクターの表情であったり、ちょっとした模様や装飾だったり、線の強弱、スピード感、そういったものを上に載せていくことになります。そして、その絵を描こうと思った感情、初期衝動を思い出しつつ、 その思いが絵に広がるように描き進めていきます。

井の頭公園 なるほど。ところで、そのときにはお仕事は辞められていたということですね。 そうなんです、退職金と貯金が無くなるまでには絵で何とかしようという気持ちがありました。でも、全然そんな甘い世界ではないということにやりながら気づき始めて、掃除のバイトをしたりしつつ井の頭公園へ毎週末行って自分の作品を葉書にして売ることを始めるんです。それと、西荻に「ニヒル牛」という箱貸しのお店があるんですけれど、月2千円とかで箱を借りてそこに自分の作品を置いて売ることを始めました。 最初は井の頭公園なんですね。 井の頭公園では漫画家さんや映画監督さんとかそういった方と出会うチャンスがありました。それで、仕事も頂けたりして、ちょっと特殊な人と交わるチャンスがある場所だと思いますし、そこで毎週末新しい作品を出して30分もすると人の反応で「これはうまくいってないな」とか「こういうのが人に喜ばれるんだ」というのがダイレクトに伝わります。 どういった反応なんですか? そうですね。当然売れる売れないというのがわかり易いですが、ギャラリーで展示をするとみんなプラスのことを言ってくれて嬉しいですけど、公園で出していると子供とかが「このパンダ寂しいね」とか正直な声が届くんです。それは貴重な声でしたね。そういう経験から自分が普通に書くと暗い絵になってしまうことに気づいて、暗い絵・淋しい絵なんだという客観的な目がだんだん身についてきました。

「眠り」と「夢」​​ そこで森本さんの作風が生まれたのですね。作品にチェミィやウネミィといったキャラクターがありますが、どういった発想から生まれたんですか?

ウネミィは「うさぎ」と「眠い」という言葉が合わさって生まれました。眠れない悩みを抱えている方が今すごく多いというので、「心地よく眠れる」「安眠」というところから生まれたキャラクターです。そのウネミィの仲間で夢泥棒をするチェミィという猫やムミル(夢見る)という女の子がいます。夢の世界に住んでいる夢見る女の子です。  「眠り」とか「夢」とかに着目されたのは何か理由がありますか? ファンタジーと現実の境目というのは、完全にファンタジーでもなくリアルすぎるわけでもなく、「もしかしてこういう世界があるのかもしれない」ということを書けたらというのがあります。作風としても色がモチーフに入り込むとか、背景とモチーフが溶け込んだようなちょっと夢の世界のような、そうタッチが好きですね。

悲しい夢や楽しい夢やいろいろありますがどんな夢を描くことが多いですか? 怖い思いをしたとか嬉しい思いをしたとかそこの初期衝動を絵に盛り込んでいくんですけど、例えば地震があって怖かったという誰もが持っている感情を一つキーワードとして決めて、それをテーマに完成させていくんです。怖い体験も書くこともありますが、描き終わってこれはやっぱり出さなくていいとお蔵入りすることあります。でも、自分の中ではそこで吐き出せたのでそこはひとつ完結して次の作品作りに進むことができます。

目指しているものはなんですか? 以前は世の中で流行しているものや街で見たいいなと思うものや展覧会で見たものとかに影響を受けて書いていました。でも、身近なもの、普段生活してる中から生まれるもの、東京らしさを絵にしたいという気持ちが強くなってきて、まず、日本にあるこういう自然をスケッチしてそこで見つけた綺麗さとか色から作品につなげていきたいと思っています。この自然と吉祥寺とか三鷹とかそういう街の魅力をうまく融合したいと考えていて、井の頭自然文化園でスケッチしたタヌキとかアライグマとかその形を使ってデザインをしていて、そういう自然が持つ綺麗なライン、美しさを絵の中に取り入れていきたい。 三鷹は建物自体が詰まっていなくて余裕があって、特にこの辺はそうなんですけど23区内に比べると空が広い。バイクに乗ってこっちに帰ってくるとやっぱり気温が少し下がるのかな?自然が多い分、星も見やすいような気がします。自然と街のちょうど境目みたいな感じがしています。

神代植物公園 自然をスケッチするために神代植物公園に来るんですね。どれぐらいの頻度でこちらには来ますか? 多いと週3回ぐらいで週1 回のときもあります。でも、だいたい毎週来ています。 いつも神代植物公園の深大寺門から入場して、まずは案内板から今日の見どころをチェックします。そして、見どころのエリアでスケッチしています。これが綺麗だなって感じるものを選んで描いています。スケッチ用の画板の紙に鉛筆でスケッチしていくんです。それで、スケッチをしていると時間をかけたい思うものがあります。油絵の具をパレットに入れてきているのでそういう絵は色をつけるんです。それを切り取ってそのまま額装するときもありますし、それを元にF3ぐらいに新たに描くこともあります。2日に一回は写真をインスタグラムにアップしています。

「スケッチ用の画板は小さいサイズなんです。みんなこのポーチに入るサイズなんです。画板も実はオーダーメイドでこの大きさに作っていただきました。」とおっしゃるポーチと森本さんがデザインしたロレッタ
この絵の具もポーチの中に入ります。

どれぐらい時間をかけているのですか? 色彩を入れると3時間位かけるときもあります。そうすると、最初は蕾だったのがちょっと開いてきたりします。そういう時間で変化もしていきます。そして、光も常に変化しますし、風も揺れていたりで、「あーそっかー刻々と変化するものなんだ」と、当たり前なんですけど、そこに気づいたりします。 時間の変化を絵に取り込むのは難しそうですね。 写真を見て書くとそっくりそのまま写真の形にしなければならないという頑張りがでてきます。逆に言うと変化するから曖昧さがそこで許されると思います。意外とそれで家で手直しをしても悪くなっちゃうことがあります。不思議ですけどここで仕上げた方がいいのもあります。 季節ごとに変化もありますよね。 その変化が面白いです。リレーをするようにこの花が終わって次はこちらと、トータルすると1年中何かしら咲いているんです。でも、その花自体から見ると1年のうちで、桜で言うと3月4月しか咲かない。短いんだなと感じますね。花がリレーしていくような感じです。あと、ずっと描いてるとおばちゃんたちがこの花は今年早いわねとか例えばミツマタを書いたときにはミツマタって和紙の原料になるのよねとか、知識が入ってくると、身近なところにこういう植物が生かされてるんだと発見もあって楽しいです。

たまたま去年バイクが壊れて、スケッチ旅行のための遠出ができなくなり、身近にある植物園通いが始まりました。通っていくうちにその楽しさに気づき、またそのことで、いま住んでいる場所やその周りにしかないものの良さや特徴をもう一度見直そうという気持ちが高まりました。

――――――――――――――――――――――――――― 森本ひであつ Hideatsu MORIMOTO

三鷹市新川 在住

<展覧会情報>

ひであつ hideatsu 個展

 日時 2016年8月16日(火)~8月21日(日)

    12:00p.m.-19:30p.m.

 原画15作品やブローチなど30点ほどが展示されます。

――――――――――――――――――――――――――― インタビュー 2016年6月 Interview/Text Web Photo Edit  沼田直由 ――――――――――――――――――――――――――― <インタビューを終えて>

神代植物公園は三鷹市の南の調布市にあります。地図を見ると三鷹市のおなかの中にあるようにも見える通り、三鷹の人々が多く訪れる公園です。森本さんがおっしゃるように季節や時間の流れを感じられるように工夫を凝らした植物公園でした。アウトドアでの植物公園の風や香りを感じながらのインタビューで、自然と街との融合というお話が風景を見ているととても腑に落ちてきます。最後に植物公園内を森本さんに案内していただきましたがここでの作業を心から楽しんでいらしゃるように感じました。 ―――――――――――――――――――――――――――

"tsu-na-ga-ru"のインタビュー

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