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没頭と、技巧のあいだ。 画家・石塚桜子さん


アトリエに入ると石塚さんの背丈ほどの作品が立てかけてあった。"Cry of emotion" 部分

インタビュー Vol.4 

石塚桜子さん (画家)

三鷹市下連雀 在住

三鷹市下連雀のアトリエで、画家・石塚桜子さんにお話を伺った。

ギャップをもつ人だ、と思った。

たくさんの言葉がこぼれ落ちる口元とは対照的に、相手を吸い込むように、静かに円くそこにある瞳。お話を伺っていると、頭の上から桜子さんの言葉が降ってくるような錯覚を覚えた。

写真の現像室としても使われていた六畳のアトリエの窓は、黒い布で目張りがされていて、外光は入らない。

彼女は、この小さな部屋から、世界中へ旅に出る。

「みたいものが、あったので。」

なぜ?と問われるでもなく、彼女が口にした。

「学生の頃には学生の、今には今の、年を重ねたら重ねた時の、旅の仕方がある。学生の時はとにかく貧乏旅行でたくさんの国に行きました。今はまた、違う旅ができる。ガラパゴスとかね、行きたいと思ってもお金がなきゃ行けないんですよ。」

***

19才の時に、同時に2つの大学に入学した。

石塚:1つは東京造形大学。もう1つは水戸芸術館小沢剛さんがやっていらした相談芸術大学です。(「大学」という形式をとった小沢剛のワークショップ。1995年4月〜5月の期間「開校」した)

 相談芸術大学は、小沢さんや、横尾忠則さん、福田美蘭さん、八谷和彦さんなどが「教授」をつとめていて、全国から20名くらいの「学生」が来ていたと思います。4月に入学して、平日は造形大に、土日は相談芸術大学に通って、学び始めました。一方では、アカデミックな美術を学び、もう一方では、現代美術の渦中にどっぷりと浸って。

 相談芸術大学では、どの「授業」もとっても面白くて、勉強になりましたよ。横尾忠則さんは、ひたすら宇宙の話をしてましたよね…(笑)相談芸術っていうものが、小沢さんの発明なんですけれど、初めに描いた絵を次の人、次の人とアドバイスをもらって加筆していくんですね。リレー方式で、前に描いた人の絵と「相談」しながら描いていくんです。人から人へ、価値観が巡って巡って、最後に行き着いたところが完成です。それが面白くて。それから、私は、福田美蘭さんが大好きだったので、絵をみてもらったりしました。「あなたの作品、もう出来上がってるからいいのよ」って言われたりして。カフェテリアで美蘭さんが、パンをパーンってちぎったところだとか、そんな瞬間を覚えています(笑)

 東京造形大学では、課題が出た枚数分しか描かない学生でした。そのかわり、一発入魂。一枚一枚気合いを入れて描いていましたね。島田荘司さんの小説の装丁画として使われている作品などは、学生の時に描いた作品です。

 立体を作る授業では、他の学生がダンボールをギコギコ切っている中、材料の中にあった「セメダイン」で繭をつくって、外の陽が燦々とあたる壁に設置したんですよ。風にそよそよと揺れて、表面がきらきら光って。先生には「一体これはなんだい?」と聞かれましたが、いい成績をもらいましたよ。

島田荘司全集 月報表紙絵

いろいろな表現がある中で、それでも「絵」を描いてきた。

それは、どうしてですか?

石塚:平面性を大事にしています。平面性の中に展開していく、平面の中の「動」であること。平面性の中に感情のmathですね、「塊」。mathを描きたいんですよ。例えばこれは"Cry of emotion"というタイトルなんですけど、激情なわけです。激昂しているんですよ。それを叩きつけるわけですね、歯を食いしばっていたりして。でも、それが「美」として存在しなければいけないわけで。私が一番気を使っているのは、作品の「品格」を保つことです。

 それに、やっぱり私には絵しかないんですね。絵は、私にとって仕事であり、生き方なんです。自分が生きている意味を確かめたい。それが私にとっては、会社で働くことじゃないんですよ。絵を描くことなんですよ。自分が生きている意味とか、生きてきた証を残すとしたら、私には絵しかないんです。絵でしか表現できない、絵でしかありえないもの。絵の魔力に取り憑かれているんですね。血がふつふつと沸騰するのがわかるんです。

この小さなアトリエで、描くことが誇り。

制作について教えていただけますか?

石塚:大学卒業後は、毎年、作品を発表してきました。発表の少なかった年にも制作はやめなかった。すごく、ふんばってきましたね。

 作品の制作は一度はじめたら一気にやります。大きな作品でひと月位かかるかな。毎日描きます。終わると、ホッとする。やりたいと思ったことをやるのは大変です。ニスのつや、黒の質、細く鋭い線。欲しいものを平面の上に描き出すのには、やっぱり一種の技術ですね。

情熱的にほとばしるものがあっても、技術でそれを冷静に支える必要があるんです。でも、完成していざ制作のプロセスを振り返ると、すごく曖昧になっているんですね。消耗したんだな、と思いますよ。無我夢中なんですね。

装丁画や、チケット、ポスターなどに作品が印刷されていくことも多いと思いますが、作品の受け取られ方についてどういう考えをお持ちですか?

石塚:なんとも言えませんね。自分の絵は、客観性をもてないんですよ。プレゼンはできるんですけど、それ以上のことは言えない。チケットになったりすると、こういう風に見えるんだと思って。どんどんそうやって印刷されたりしていくと、自分の手を離れてしまって。私のものですが、私のものじゃなくなっていく。でも、自分が思っていた価値観に付加がついたような気がして嬉しいですね。この絵が、こんな風に起用された、って。

 受け取る人にとって、色々な方が語りやすい絵ではないかと思います。それぞれの方の見方で、色々な受け取られ方をしていくのは、嬉しいですね。モチーフにしても、メッセージにしても、自分でこうだという思いはあるんですが、みてくださる人にとっては作品のフックとして刺さって、何かが伝わるようにと思っています。

 最終的には、作品は美術館に収蔵されるというのは当たり前のことです。でも、そういう機会に恵まれなかったら、本当にその作品を好きでいてくれる人のお家に収まっていくのが一番いいと思っています。

佐藤美術館で開催された石塚桜子展―マイルーツ―(2012年)のチケット。

使われた作品は「母のポートレート」。

***

インタビューが終わると、

「ちょっと一杯いかがですか」

と、石塚さんが近くにある立ち呑みの名店”大島酒場”に誘ってくれた。

「生ガキが最高なんですよ」

今日一番の笑顔だ。

2015年3月7日

「三鷹にはこれからもずっと住んでいきます。

街として大人なところが気に入っているんです」

インタビュー後、近くにある「大島酒場」にて。

石塚桜子

Sakurako Ishiduka

三鷹市下連雀在住

interview:沼田直由

text, photo:越川さくら

*石塚桜子 展覧会情報*

会期:2015年5月12日〜5月17日 10時〜19時(最終日16時まで)

◎石塚桜子 個展

会期:2015年7月24日〜8月2日 13時〜20時

会場:ギャラリーFace to Face(吉祥寺)

※どちらも会期中無休、入場無料です。

"tsu-na-ga-ru"のインタビュー

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