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地域をフィールドにした美術家  NABEKAORUさん

インタビュー Vol.10 NABEKAORUさん

NABEKAORU(ナベカオル)さんは、絵画やインスタレーションを制作するだけではなく、コミュニティを作ることや活性化することによって表現を続けている美術家です。

今回は、多くの表現方法を持つNABEKAORUさんにアーティストとしての成り立ちや未来像などを伺いました。

ドアを開けろ

会社員をしていたと聞いていますが、アーティストを志すきっかけは何だったのでしょうか?

会社へ入社すると新人研修とかが始まって自分の生活に余裕がないぐらい毎日忙しくして「会社員ってこういうことなんだな」と感じていました。もともと父が矢沢永吉とかキャロルとかのアマチュアコピーバンドのドラマーだったりとか、母もアコースティックギターを弾いていたりで、音楽が好きでした。そんな環境の中で、日本のバンドのエルレガーデンにすごくハマってしまって、ちょうど会社に入社した頃から、そのバンドの追っかけというわけじゃないですけど、ライブハウスに行ったりツアーに行ったりして、どんどん音楽仲間も増えて、それと同時に音楽のパワーは本当にすごいなと感じました。一度にたくさんの人を幸せにできるあんな楽しい空間はないと思っていました。それで、自分のストレスもあったんでしょうけど、なんか知らず知らず絵を描きたくなってたんでしょうね。なんともそこは説明をし難いんですけど、そういうビビッと「私もなんか表現を」みたいなものが湧き上がってきたんです。

なるほど、ご両親のそんな音楽好きの影響があったのですね。

そういう音楽で熱くなる家系というかDNAが流れていたということですね。25、6歳ぐらいから4、5年、上京するまでは、ほんとライブ仲間とつるんでいました。そういう人たちは結構熱い人が多いんです。すごく応援してくれたりとか、展示にもみんなで来てくれたりとかそういう暖かいコミュニティの中で、なんか運が良かったのか音楽とともに育っていったようです。なんか絵を描く、初期の心を温めてくれました。それで、入社して3年目ぐらいかな、急に、なんか描き出したんです。

実際にもう一度絵を描いてみて苦労したことはありませんでしたか?

絵の道具とかもほとんど捨てていたりとかしていたので、また全部買い直して描き出してグループ展に出てみたりとかしました。でも、その時は完全にゼロベースでした。高校から短大まで絵を描いていたけど、それは九州の佐賀県や福岡県の学校で、当時住んでいた岡山県では、美術関係の知り合いのつながりは全くゼロで完全に手探りでした。岡山のアート事情も全く知らないので、いろいろ企画をやっていそうなところに連絡して「お話を聞かせて頂きたいです」みたいにしていました。そこで自分のことをお話しさせてもらって、そうしたら、たまたまギャラリーの方が優しい方で、こういうところでこういうイベントやっているとか倉敷ではクラフト系の何かコミュニティがあるよとか教えてもらったりしているうちにグループ展に呼んでもらって始まったとていう感じです。

一歩入り込め

ゼロベースで始めて印象に残っていること何でしょうか?

人とのやりとりというか、やっぱり作品だけじゃないですね。特に、私の場合は人とのつながりも同時に育って来たという感じがあるので、なかなか一歩入り込めるのに苦労した時もありましたね。最初の時期のことですが、岡山市の出石芸術百貨街という街の普通の商店やお家とかにアーティストが入って展示をするんです。お家ごとにひとつのアーティストなんですが私は精肉店。牛の塊が丸々大きな釘に刺さって吊り下げられているのが奥にいっぱいあるような、昔ながらのお肉屋さんですね。老夫婦でされているお肉屋さんだったんですけど、やっぱり最初は「え?」、「これを展示?」、「まあいいけども」みたいな感じでした。協力的な方だったと思うんですけど、やっぱりお互いに戸惑いみたいなものがあったかもしれません。「壁とかこの辺に絵を貼るだけでしょ?」みたいなことが岡山弁だから「貼るだけやろー」みたいな感じでちょっときつく聞こえちゃったりしました。それで、絶対面白いことをやってやろうと思って、インスタレーションを設置したんです。徹夜とか結構して準備にも時間をかけてせっせせっせと作っているのを見てくださっていたのかちょっとずつ打ち解けてくれました。それで、おじさんの方が少し壁が厚い感じがあったんです。でも、展示期間の最後に「うちにもアートあるよ!」「ちょっと見て行ってよ!」みたいな呼び込みを言ってもらえて、これが醍醐味かなと思いました。自分にとってこういうふうに人とつながっていくのが自分の制作した成果ややりがいだと思いました。それでちょっとずつちょっとずつそこにくる業者の卸さんとかも「今年もやるんですね」「何気に楽しみだったんですよ」「今年は思い切ってますね」みたいにそういうちょっとずつちょっとずつ、そこの展示場所に関わる人たちもまた話しかけてくれるようになりました。

どれくらいの期間でそういう関係になれるのでしょう?

半年ぐらいじゃないかな。それに自宅から車で1時間ぐらいはかかるので行ったり来たりと意外と自分の中では大変でした。ちょこちょこ顔をだして最初は「こういうの天井から吊り下げてもいいですか?」とか恐る恐るやっていました。ヒトとヒトとのコミュニケーションが最初、ツライまではなかったですけれどちょっと大変だなって思いましたね。

精肉店というのは、珍しいですね。

それが主催者さん側の提案だったんですよ。なんかよくぞ捉えてるっと思いました。「NABEさんはここどうかなって思うんですけど」みたいに。まさかまさかの昔ながらのお肉屋さんでやるのってそうそうないだろうなって今思えば凄い自慢ですよね。

そういうところでの展示はパワーが入りますね。

入りますね。逆に個展なら個展でもパワー入りますけど、それ以上になんかひたすら、もう会場も決まっていて設備も全部整っていて向こうはギャラリーだからやり慣れてて、じゃないですからね。どっちも初めての場所で展示をする。しかも、「うちでするの?」みたいなドキドキな感じですからね。

すごいパワーだと思います。お父様が好きな矢沢永吉さんも、「ドアを開けるか開けないかで大きな差が出る」と言ってます。そのパワーでドアを開けたということですね。

とりあえずドアは開けちゃいますね。そう、やらなくて後悔って一番嫌なんですよ。やっとおけばよかったとかそういうのが一番嫌です。あの時という過去に対して、やっていれば良かったって、本当に悔しい思いをしたこともありましたから。

地域へ栄養、地域から栄養

地域とアートについてどんなお考がえがありますか?

アートもいろんなパターンがあります。私は崇高なものよりフィールドがいろいろある地域とアートの方が楽しいんですよね。自分らしく活動できてる場所が私の中では地域だったと思いますし、地域でアートという方が魅力を感じるんですよね。ちょっと前に芸術とお金というコンセプトの書籍に「芸術は健全な国にとって欠かせないものである。衣食住が身体的な幸福にとって欠かせないように芸術は我々の人生の社会的及び精神的な栄養として重要なものである。音楽や歌ダンス映画、本、それにビジュアルアーツがなければこの人生はひどく侘しいものになろう」とあって、自分の言葉じゃないんで恐縮なんですが本当に「栄養」だなって思います。

NABEさんの作品が地域の方々の「栄養」になっているということですね。

自分の「栄養」にもなるんですよ。マルシェとかで交差点でライブペイントをやったりいろいろしました。そのときに見てくださっている方が「また見に来たよ」って声をかけてくれて、そうしてちょっとずつ応援してくださる方が増えてきて、そこでまたコミュニケーションが促進されて広がっていて、なんかそういうつながりを私はすごく大事にしています。もちろん音楽のライブみたいに同時にたくさんの人の目には広がらないけど、それでも対面して1対1とか2ぐらいでつながりが深まっていくのがすごく嬉しいし楽しいです。それは、自分が活動して来たことの成果物なのです。地域でやってきたことで生まれているので、自分にはすごく大きいですね。

地域の人から「また来てね」と言われることは、地域の人の「栄養」になっているという証ですね。

そうですね。だからこそ三鷹の地域で活動をしている人たちからお声がけいただいたりとか仕事につながるご縁になったりとかも、活動しているからこそ、知っていただいて、地域をフィールドにした活動にまたつながっていく感じですよね。地域は私の広い庭のようです。ひたすら耕して芽を撒いて耕してちょっとずつ成長していっているような、庭ですね。

進化していく

大雑把な質問になりますが、三鷹での活動はどうですか?

ここ2年自分の活動をずっと考え続けていて、このままずっと地域でやっていくのも、アート・イベントに呼ばれて出演したりというのも楽しくていいんですけど、最近は改めて海外を視野に入れています。そうすると、このままではいけないと思います。賞歴、経歴ですね。経歴がイベントでいいんですけど自分はもっと進化したいと思うんですよ。アート・イベントももっと大きいイベントに参加させていただくとかオファーが来るぐらい自分の表現力の底上げをしないといけないと思っています。私はやっぱり進化したいと思います。なので、絵画のコンクールとかで海外で活動をしている人をインターネットでチェックしたり、海外の友達とやりとりしたりしているのですが、するともっと頑張らないといけないと思いますね。もちろん賞とかがすべてではないんですけどやはり海外へ出ていきたいと思った時に自分の経歴とかを書いていくと、なんか頑張っては来たけれど目を引く華々しいものがなくて、微妙に中途半端なところにいる。なので、ちょっとギャフンといわせられるものを何か獲りたいと思いますね。助成金も頂くためにはやっぱりそれなりのプロフィールがいるんです。助成金とか県とか市の取り組みによっては若手の作家向けのものがあるのですけど三鷹にはないんですよ。結構地方なのに何十万円かの助成金が出たりします。せっかく三鷹市美術ギャラリーもあるのにそういう企画をしないのかなって思います。趣味を超えて本当に精力的に活動をしている作家向けに展示させてくれるとか、もうちょっと頑張っている若手作家のほうにも目を向けてほしいです。

海外といえば、アーティストレジデンスについてどうお考えですか?

行きたいですね。申請を送るんですけどやっぱり賞歴とかでちょっとつまずきますね。財団とかがついているところだとシビアですね。あとは、少しお金をだせばスタジオを使って寝泊りもできたりするのですが、海外でやった成果がないわけではないけどそれでは違う気がします。それなりの待遇をしてくれるところというとそれなりのスキルと経歴を持ってないとやっぱり厳しいのです。地域活性で動いていても、それはその地域の言葉が通じるところでやっているので、いざ海外となると完全に自分のビジュアルアーツのペインティングのところで勝負するしかありません。それだと個展も2年、3年に1回で少ないし、そんなにコンクールに興味がなかったから出してなかったのもあります。だからすごい弱いなっと思っています。

意外に海外に行って作品に集中しようと頑張っていても知らず知らずのうちに地域のアーティストになっているような気がしますね。

その可能性はありますね(笑)。私の場合、いつのまにか居そうですよね。まあそれはそれで面白いかもしれないけど。まあ、これはちょっとコンプレックスもあるのかもしれないですね。すごい人は絵だけで食べてる人もいるし、でも、とはいいつつ私は私ができることをします。

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NABEKAORU(ナベカオル)

東京都三鷹市 在住

東京都三鷹市、中央通り商店街主催「Mマルシェ」発案者、実行委員 2007年~2009年 岡山県まちづくりアートプロジェクト出石芸術百貨街

  (3年連続 喜多屋精肉店にてインスタレーション) 2008年~2014年 奉還町商店街まちの活性化アートイベント [West Side Mixer]

  過去4回の参加にてインスタレーション、公開制作を展開

2010年7/24 タウン情報おかやま企画夜市出演(ライブペイント) 2013 LAWSON主催 タンブラーデザインコンテスト/オーディエンス賞受賞 2013 Handmade Korea Fair2013(招待枠) 4日間の公開制作 2013,9 New Acoustic Camp2013@face paint(群馬県) 2013,11 Live Paint DOJO2013@Turner Gallery

2014 Busking:Live Painting/Place: near the Hongik Univ. 2014.6 Live Paint / Mマルシェ@三鷹中央通り商店街主催 2014.7 Live Paint&Bar @高円寺Amp Cafe 2014.8 公開制作2days @奉還町[West Side Mixer] (岡山県) 2014.9/16&9/17 New Acoustic Camp2014@face paint(群馬県) 2014.10/18 三鷹駅前まるごと絵本市@ワークショップ/三鷹市市民協働センター 2014.11/21 Live Paint @Art Baboo146(横浜)/ Before,vol,4 2014.12/6&12/7 個展@三鷹ユメノギャラリー(東京都三鷹市)

2015. 2/14 「素敵style of 衣食住」@西荻窪ThePark(ワークショップ) 2015, 3 壁画制作@FINDARS(Malaysia, Kuala Lumpur) 2015, 4/23 [screening+talk] about Malaysia @ 高円寺AmpCafe 2015, 5/31 ネグラ主催[感じるゥ~!インド] @ 高円寺Ampcafe 2015, 6/6~6/7 西荻茶散歩@VIVACEカイロプラクティック前にて出店 2015, 7/12&7/19 DENIMワークショップ/it's a Beautiful day下北沢

2016.5/1-5/5 Art Tokyu Kichijoji 吉祥寺 東急百貨店 展示・販売 ※5日のみ入口にてライブペイントパフォーマンス 2016.5/8 東京レインボープライド 代々木公園 NPO法人startline.net ブースにてインナーペイント

You Fab Global Creative Awards2015 ファイナリスト受賞 プロジェクトチーム「セカイノコトワリ」作品 -Nature of Nature-

<ホームページ> http://toiletart.jp/

<最新情報>

Cokun Artist Village

佐賀県唐津市にて、アーティスト主導の空間づくりを。そしてその中で宿泊できる体験も。

2017年7月21日~8月31日

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インタビュー 2017年6月

Interview/Text

Web Photo Edit  沼田直由

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<インタビューを終えて>

幅広い活動をされているNABEさんの海外への挑戦を応援したいと思いました。私もNABEさんのお父様ほどではありませんが矢沢永吉さんが好きで人生に影響を受けた部分が多くありまして、怖さを感じながらもドアを叩いていくNABEさんもお父様を通じて影響を受けているよう気がしました。これからも、もっと重く厚いドアを開けてくれることを期待しています。

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"tsu-na-ga-ru"のインタビュー

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